【Introduction】
「ナンニモシナイ」をめぐり、色々な人たちのもとを訪れて話を伺う、『失われたナンニモシナイを求めて。』というこの企画。1回目の旅の行き先として訪れたのは、青森県五所川原市にある「法永寺」というお寺です。こちらでご住職をお勤めになっている小山田和正さんのお話を、2時間ほど、じっくり伺いました。「ナンニモシナイ」という言葉から、小山田さんとともに僕たちは、いったいどんな場所にたどり着いたのでしょうか。社会の時間から遠く離れて。長い旅の記録を、お楽しみいただければ幸いです。
【目次】
第1話(2023/3/1)第2話(2023/3/2)第3話(2023/3/3)第4話(2023/3/4)第5話(2023/3/5)第6話(2023/3/6)第7話(2023/3/7)第8話(2023/3/8)第9話(2023/3/9)第10話(2023/3/10)第11話(2023/3/11)第12話(2023/3/12)第13話(2023/3/13)第14話(2023/3/14)第15話(2023/3/15)
【登場人物】
〈たずねた人たち〉アツシ(高橋)シャッチョ(永井)ヨッシー(久米田)リッチャン(佐々木)ワーチャン(戸崎)
〈こたえてくれた人〉オヤマダさん(法永寺住職 小山田和正さん)
オヤマダさん そうだな…。あとだから、時間、は、すごい意識するんですよね。
アツシあー。
オヤマダさん その、一般的な時間からぜったい外れた時間、時間軸を自分で持つ、というか。なんかこう、時間、例えば、会社とかにいると、納期がちゃんとあって、3ヶ月後にはこれできてないといけないですよ、あるいは、株式会社とかになると半年ごとに決算があって、それじゃ半年後にはある程度結果を出してないと、あんたはだめですよっていうすごい短いスパンの時間があって。
アツシ はい。
オヤマダさん それで生きてると、けっこう疲れる、じゃん?
アツシ うんうん、そうですね。
オヤマダさん んで、だから、せっかくだから。でもさ、それは外れないんですよね。
アツシ あー。
オヤマダさん 私もこう、お寺をまあ、いわゆる経営してるので、そこはどうしても外し切れないんですけど。せっかく自分で別の法人作ったんだから、そこからはぜったい外れる意識っていうか、それは持ってて。あと時間軸もさ、今、長くしたいなあって思ってるんですよね。
アツシ うんうん。
オヤマダさん その、例えば林業の人とかって、自分が今植えた木に対して、たぶんその木を使うのは、孫の人たちじゃないですか。んで、自分達が使ってるのは、おじいちゃんとかその前のおじいちゃんとかが使ってきた、木に費やしてきた時間、じゃないですか。そういう時間軸の中にいる。だから、今ってけっこうほら、半年単位一年単位で決算が来て、そういう中でどれだけ売上伸ばすかみたいなことが、ものさしとしてあるけど、それだと苦しいっていうのは確実に分かってて。じゃあもう一個自分で持ってた方がいいっていうかさ、そうしないと、そのだから、時間軸ですよね。
オヤマダさん だから今やってることが、えっと結果が出るのは、100年後です、とか。で、今自分は100年前の人たちが一生懸命やってたこと、のおかげで、生活できていますとか、それをずうっと延ばしていけば…。やっぱり今ほら、この辺だとさ、縄文とかってみんなさ、今なんかビジネスチャンスみたいになっててさ、盛んにやってるけど(笑)
アツシ そうですね(笑)
オヤマダさん けっこう時間軸としては、ここに住んでる限り、縄文っていう、むかしむかしの時間軸、からスタートして、私たちが今ここに居ますみたいな感じの時間軸を持てたら。持てたら今度は、1000年か2000年かわかんないけど、2000年後の人たちのためにやっていこうじゃないかっていう、なんかさ、そういう、気持ちになれないのかなって。
アツシ あぁ…。
オヤマダさん そういう気持ちになるには、どういう仕組みがさ、なにしてったらいいのかなっていうのはずっと考えてる。考えてるんですよね、今の法人に関しては。それはその、さっきのだから、「ナンニモシナイ」に、つながるかはわかんないですけど、今なにもしてない、してないように…。だから、けっこう、私が今なにもしてないって言ったのは、私、高橋さんを、自分で分断したのかもしれないですね。あなたはそっち側の人ですよねっていう。
オヤマダさん 分断しちゃったのかもしんない。そうやって考えるとすごい、申し訳ないなあって気持ちに(笑)
アツシ いやそんなべつにぜんぜん(笑)
オヤマダさん そういう軸で生きてますよねっていう人に対しては、たぶんなにもしてないんすよね、って言うのかもしれないです。私は今なにもしてないですよって。そういうことなのかもしれないですねぇ。
アツシ へえー。
オヤマダさん けっこうじゃあ気をつけなきゃいけない言葉になったっていう。今、自分で気づきました(笑)
アツシ そっか使い方が。そうですよね、すごい、デリケートな言葉、かもしれないですね。
オヤマダさん そう、だからなんか、すぐ結果が見えないことを、してる、というか、そこに追い込んでるのかもしれないですね、自分を。
アツシ あぁその、一般的な時間軸とは違う。
オヤマダさん そうそう。
アツシ そういうところに、自分を、追い込んで。
オヤマダさん そうですね。かもしんないですね。
アツシ オヤマダさんは、追い込んでるんですね。
オヤマダさん 追い込んでないとぜったい飲み込まれると思うんですよね。
アツシ あぁー。
オヤマダさん どっちかっていうとほら、なんかさ私も、デザインの仕事とか本業だったので、どうしてもこう、これを、こういうデザインして、それを売って、すぐお金入ってくるみたいなさ、そういう力ってけっこう自分の中でやっぱりあって。だから、そっちに行きがちなんですよね、どうしても。
アツシ うーん。
オヤマダさん でもやっぱり、なるべくそういうものは、そういうきっかけになるようなものは、全部自分の中で削除して、みたいな感じで。この前やっと、Twitterのアカウント消したので。
アツシ あ、ホームページのお知らせで拝見しました。
オヤマダさん あれもけっこう、自分では追い込んでる感じですね。実際その後のウェブサイトのアクセスとかなんかはもう、がくんと落ちるわけで。でも実際は活動してるんですよね、いろいろやってはいる、アップデートもしているんだけど。まあ、Twitterがないだけで、こんだけアクセス数違うんだなあって思ったりもするけど、でも、それはそれでまた楽しいっていうか。けっこう、なんていうの、別に、別に分けることができたかなあって、そんな感じはしてるんですよね。
アツシ じゃあけっこう、大きいことだったんですね。Twitterを、切り離す、っていうのは。
オヤマダさん 勇気いるよね(笑)やってない人には伝わらないかもしれないけど、その、Twitterの「いいね」的なさ、その麻薬にさ、こう、自分はおかされちゃってたから。「いいね」とかされれば、そりゃ誰だって嬉しいし。でも今は、だから反応はないんですよ。こっちからノックしても、なんも応答がない状態。これにどれだけ耐えれるのかなぁっていうか。なんかそんな感じかな、今は。
アツシ そうなんですね。
***
【幕間 その2】
一般的な短い時間軸ではない、木を育ていくような、その育てた木の行く末を見届けられないような、そういう長い時間軸の方へ、自分で自分を追い込んでいると、小山田さんは言います。日頃、りんごと関わっている僕たちにも、小山田さんが言わんとしていることは、なんとなく、わかるような気がしました。 今年植えた苗が、育ち、大きくなり、りんごを収穫できるようになるまでに、だいたい4、5年かかる。 そこには、時計の針を目で追うような、日めくりカレンダーをめくるような、そういう時間の感覚では見過ごしてしまう、何かが、息づいているように思います。
お話は、第3話「人文の話はつまらない?」に続きます。