【Introduction】

「ナンニモシナイ」をめぐり、色々な人たちのもとを訪れて話を伺う、『失われたナンニモシナイを求めて。』というこの企画。1回目の旅の行き先として訪れたのは、青森県五所川原市にある「法永寺」というお寺です。こちらでご住職をお勤めになっている小山田和正さんのお話を、2時間ほど、じっくり伺いました。「ナンニモシナイ」という言葉から、小山田さんとともに僕たちは、いったいどんな場所にたどり着いたのでしょうか。社会の時間から遠く離れて。長い旅の記録を、お楽しみいただければ幸いです。

【目次】

第1話(2023/3/1)
第2話(2023/3/2)
第3話(2023/3/3)
第4話(2023/3/4)
第5話(2023/3/5)
第6話(2023/3/6)
第7話(2023/3/7)
第8話(2023/3/8)
第9話(2023/3/9)
第10話(2023/3/10)
第11話(2023/3/11)
第12話(2023/3/12)
第13話(2023/3/13)
第14話(2023/3/14)
第15話(2023/3/15)

【登場人物】

〈たずねた人たち〉
アツシ(高橋)
シャッチョ(永井)
ヨッシー(久米田)
リッチャン(佐々木)
ワーチャン(戸崎)

〈こたえてくれた人〉
オヤマダさん
(法永寺住職 小山田和正さん)

【第5話】

ずーっと距離感について考えている。

オヤマダさん
そうだね。だからそういうことは、考えたよね…。で、それも、結局、わぁはデザインのひとつとして使ってるわけ。東日本大地震で、亡くなった、亡くなったお父さん。これもひとつのデザインじゃない? 売るためのデザインじゃん?

アツシ
うんうん。

オヤマダさん
チャリティにするための。いやその子どもたちがかわいそうだというのは、それは変わらないけれども、デザインとしては、自死で親を失った子どもたち…。「自死」ってすごい強いじゃない。

アツシ
強いですね。

オヤマダさん
強いよね。でもそれもひとつのデザインになってしまうわけ。それそんなのまやかしでしかないっていうか、そういう、なんだろうな、自分のずるさっていうのに、だんだん気づいてきて。だけどもう、もうやめられないもんね、10年間やりますって言っちゃってたから。

アツシ
あぁー。

オヤマダさん
途中で気づいたところで、やめられないっていうか、だから10年やり切るしかなかったけど、でも、その途中ではそれ、これは、絶対良くないなぁっていうのは…。

アツシ
感じて…。

オヤマダさん
そういうやり方で、チャリティ、だからチャリティなんです、ってやってきて…。だから、いろんなメディアの人たちからも、すごい取り上げられたし。でもやっぱ自分の中では後ろめたさしかなくて。

アツシ
はぁ…。

オヤマダさん
んで、東日本大地震、の、チャリティをしている「私」みたいなさ、そんなもういやらしいさ(笑)

アツシ
あぁー(笑)

オヤマダさん
もう下品、極まりないっていうの?(笑) その善意をさぁ…。

アツシ
そっかぁぁぁ…。

オヤマダさん
んでメディアとかに、わぁはすごい説明はしてたんだけど。なかなか伝わらないよね。結局さ、彼らはさ、そういう頭しかないから。あの、どうしたって、タイトルがさ、それもデザイン、なんだよね。だから、人の目につくようなものをピックアップして。ものすごい人の目を釘付けにするタイトルをつけるわけじゃない。そういうのにすごい嫌気が差してて。だからもう、どこにも引っかからない、やつをやりたいっていうか。それが今の法人なんだよね。

アツシ
あぁだから、今の法人なんですね。

オヤマダさん
だから取材とかも、まぁ、絶対あの、メディアには取り上げられない、ことを、していくっていうかさ。それがひとつ、ものさしになってて。散々こう、取り上げられてきたから、彼らが、もっと言えば、彼らの先にいる人間たちが欲しいもの、見たいもの聞きたいものがだいたいわかる、っていうか。じゃあそれ以外のものをやっていこうっていうか。それを今すごい意識してる。んー。これ「ナンニモシナイ」につながっていくのかな、わかんないなぁ。でもなんか、今は、そういう感じかなぁ。

アツシ
うんうんうん。

オヤマダさん
それはだから社会とのつながりっていうところに関わってくるのかもしれないし。

アツシ
あの、「ナンニモシナイ」も、何度かメディアに取り上げられて。うーん。まぁでもやっぱりこう、こういう切り取られ方をするよなーって思うことはあって。その「日常から離れてぼーっとする時間ですよ」っていう風に。

オヤマダさん
うんうん。

アツシ
まぁそれはそれでいいなっては思うんですよ、べつに。うーん、でも、でもなぁっていうところはあって。どう、どう思います、社長?(笑)

シャッチョ
ごめん一瞬違うこと考えてた(笑)

一同
(笑)

アツシ
なんかその、メディアに乗せていくための切り取り方っていうのは、けっこう取材を受けたりすることもあるので、まぁ永井と二人でいる時とかに、いろんな話はしてきて。

オヤマダさん
そうだよねぇ。


アツシ

やっぱこう。うーん。まぁどこで自分たちがそういうことをしているかはわからないんですけど、メディア的なことを自分たちがする時は、できるだけ自分たちにとって都合のいい、切り取り方にならないように、っていうのは、ぼくは意識していて。おそらく永井もそれは、強く意識していて。

オヤマダさん
うん。

アツシ
でも、うーん。できるだけそういう、自分たちにとって都合のいいように、っていうところからは、距離を取りたいんですけど、わからない。これからどうなっていくか、わからないなぁっていう、ところはあって。

オヤマダさん
今ふと思い出したけどあの、東京行った時に新幹線で見た、雑誌で。

シャッチョ
え?

オヤマダさん
あの、これ(りんごジュースのセット)。

シャッチョ
あ、ほんとですか?

オヤマダさん
載ってたよね?

アツシ
あれじゃない?

シャッチョ
あ、JALの冊子?

オヤマダさん
あ、ごめんごめん新幹線じゃないや、JALだ!

シャッチョ
あぁ、そうなんです、載せてもらってたりして。

オヤマダさん
でもこういうふうにして、あの、お金に乗せていくことをしている場合はもう、そこからは逃れられないからね。だからもう仕方ないと思うんですよ、これは、そういうやり方でいくしかなくて。

アツシ
うーん。

オヤマダさん
だからお金に関しても、今の法人に関しては「これはいくらです」っていうのは絶対やらないっていうのは決めてるんですよ。定価は決めない。

アツシ
あーなるほど。

オヤマダさん
んで、あのー、全部、投げ銭にしてて、いくらでもいいっていう状態でずっとどのくらいいけるのかなっていうのは。それもチャリティ、さっきのチャリティの話に戻ると、最後、後半は、在庫とかもけっこうあったから、それって全部、投げ銭にしちゃったのね。投げ銭制に、後半は。後半1ヶ月。でもさ、投げ銭にした方がさ、めちゃくちゃ売上が多くって。

一同
へぇー!

オヤマダさん
ステッカー1枚に1万円を払ってくれる人たちがいるのね。それなにかっていうと、結局さ、意味あることしてるって思う人が1万円払っていくっていうかさ。それにだから気づいちゃったから、べつにその原価とか気にしなくてもいいなぁみたいなこと、今は思ってるのね。

アツシ
たしかに。

オヤマダさん
そこにやっぱ挑戦していきたいっていうか。でも実際はほら、その永井さんたちとわぁが違うのは、わぁなんてこのお寺で、しっかり地盤があるから、ほかの法人で遊べるわけよ。

アツシ
んー。

オヤマダさん
そうやって実験してるけど、それが、ね。一緒になってたらね。そんな危なっかしいことできるわけないよね(笑)

アツシ
んーでも、やっていきたいんすよねぇ…(笑)

オヤマダさん
うんうん。

アツシ
何なんすかね。同じ法人の中でもこう、プロジェクトによってこう、まぁ売上を堅実にあげていくものがあって、片や一方で、売上とかぜんぜん関係なく、おもしろいこと楽しいこと、何になるかどうなっていくかわかんないけど、まぁなんか、それをしていると、気持ちが軽くなるものというか、そういうものをやっていきたいっていう。いろんなプロジェクトがあって、同居する状態の株式会社ってこう、できないもんなのかなぁって考えてはいるんですよね。

オヤマダさん
うんうん。だよねぇ。

アツシ
はい。

オヤマダさん
うーん、たしかに…。

アツシ
でもそのために、少なくとも自分たちの中で、なにかストーリーというか、哲学って言ったらあれですけど、なんかこう、迷った時に立ち戻っていける自分たちのキーワード、みたいなものがあればいいなっていう、ことを、個人的にずっと、1年くらい考えて。

オヤマダさん
考え続けて(笑)

アツシ
そう、まだ考えてるんですよね(笑) なかなか、うーん、難しいなぁ、難しいですね。そのなんですかね、時間を超えていく、キー概念じゃないですけど、そういうのを見つけ出すっていうのは。ぜんぜん、話それるんですけど。

オヤマダさん
いやいや。

アツシ
そんな、感じですね。

***

【幕間 その5】

 自分はべつにいいことをしているわけじゃない、と自分は気づいてしまった。
 でも、他の人たちは、自分のことを、いいことをしている人、として、見ている。
 そこには、深い溝があるように思います。自分ではどうにもし難いほど深く、底の見えない溝が。
 でもだからこそ、「デザイン」や「言葉」というものを、諦めてはいけないんじゃないかと、小山田さんにここまでお話を伺い、僕は思いました。
 次回から、ここまでとは違う方へ、小山田さんと僕たちの言葉は、流れていきます。

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