【Introduction】

「ナンニモシナイ」をめぐり、色々な人たちのもとを訪れて話を伺う、『失われたナンニモシナイを求めて。』というこの企画。1回目の旅の行き先として訪れたのは、青森県五所川原市にある「法永寺」というお寺です。こちらでご住職をお勤めになっている小山田和正さんのお話を、2時間ほど、じっくり伺いました。「ナンニモシナイ」という言葉から、小山田さんとともに僕たちは、いったいどんな場所にたどり着いたのでしょうか。社会の時間から遠く離れて。長い旅の記録を、お楽しみいただければ幸いです。

【目次】

第1話(2023/3/1)
第2話(2023/3/2)
第3話(2023/3/3)
第4話(2023/3/4)
第5話(2023/3/5)
第6話(2023/3/6)
第7話(2023/3/7)
第8話(2023/3/8)
第9話(2023/3/9)
第10話(2023/3/10)
第11話(2023/3/11)
第12話(2023/3/12)
第13話(2023/3/13)
第14話(2023/3/14)
第15話(2023/3/15)

【登場人物】

〈たずねた人たち〉
アツシ(高橋)
シャッチョ(永井)
ヨッシー(久米田)
リッチャン(佐々木)
ワーチャン(戸崎)

〈こたえてくれた人〉
オヤマダさん
(法永寺住職 小山田和正さん)

【第9話】

400年前の夕日を思ふ。

ワーチャン
「ナンニモシナイ」をしている時に、待っているものがあるのかなぁってことを、お話を聞きながら考えていて。

オヤマダさん
あぁー、うんうんうんうん。

ワーチャン
ぼくはあの、日が落ちるのを待ってるのかなぁと。

オヤマダさん
あー!はいはい、なるほどねぇ。

ワーチャン
あの。あのみんながいろんなことやるぞって言った時に「おー!いっしょにやろう!」って言うけど、実際「ナンニモシナイ」の現場に行った時に、草木染めをするとか燻製をするっていうときにたぶん一番ぼく、仕事をしてないんです。

オヤマダさん
うんうん。

ワーチャン
ぼくはベンチにふんぞりかえって空見てぼーっとして、ちょっと火とか使う時があったら、お、やばいかもって様子を見に行ったりとか、するぐらいで。たまに申し訳ないなぁってなる時があって(笑)

オヤマダさん
(笑)

ワーチャン
って実は思っていたんですけど、なんかこう、夕日が、どんどん落ちてきて、それが冬に近づいていくとちょっとずつ早くなって。

オヤマダさん
うんうん。

ワーチャン
今まで、7時でも明るかったのが6時になってとか、なんかそういう、なんだろう。日が落ちるのを、ゆっくり待っていてもいいんだって、思える。なんか今まで日が落ちるとこう、もう遊べないし、小学校の頃なんか「帰りなさい」って怒られる。そうじゃなくていいんだ。

オヤマダさん
うーん。

ワーチャン
ただ時間が過ぎるのを、空眺めて電車の音を聞いて畑で風がさみぃなぁっていってそれで。夕日が落ちるのを待って、いいんだって。なんかそれがちょっと今、自分の中で話を聞いてて、なんかこう「あ、すとーん」って、きたかなぁっていうのはちょっと思っていました。

オヤマダさん
そっかぁ、そうなんですよね。なんか人に言われても、夕日を待つのを、「日が落ちるのを待ってるんです」って、強力な理由になって。それ誰も否定できないっていうかさ。で、それが、あの、そこに居る、居れる、許可を得るっていうかさ。自分で。

ワーチャン
あぁー。

オヤマダさん
じゃないとさ、なんか、ね。あのー。うーん…。それがたぶん「待つ」っていうことなのかなぁとか、いろいろ思ったりもしたんだけど、たしかに夕日を待つっていうのもあるよねぇ。でもほかの人から見たらぜんぜん、「ああん?なにやってらー?」みたいな感じになるんだけど、その人にとってはすごい大切な理由があって、っていう、ところがあるよねぇ…。

ワーチャン
そのなんか、昔から、ちょっとぼーっとするっていう、癖が、あって。

オヤマダさん
あー。

ワーチャン
ちょうど、自分の部屋が西日が入るので、日が落ちるのが、わかりやすいんですよね。

オヤマダさん
うんうん。

ワーチャン
なんかそれに慣れたのもあるのかなぁとか思って。それが強い理由になってる、理由っていうか自分を、許して、居れる、っていうのかな、言葉をお借りするとしたら。

オヤマダさん
うんうんうんうん。そうですよね、そういうところありますよねぇ。


ワーチャン

そうなんですよねぇ。

オヤマダさん
たしかにたしかに。いやぁ…。

ワーチャン
待てるって、けっこうでも今、めずらしいんじゃないかなぁって思って。

オヤマダさん
うんうん、たしかに。そうっすよねぇ…。どうですか、久米田さん。

ヨッシー
うーん…。えーっと…。たとえばさっきのお話でもあったんですけど、誰かを待ってる、誰かが来るから待てる、っていうのがあると思うんですけど。その、たとえば100年後に、結果が出るようなことをやってると、自分で生きてる限りは、結果が見れない、わけじゃないですか。

オヤマダさん
うんうん。

ヨッシー
でも自分はなんかそれこそ、すぐにこう、結果が出てほしい、んですよ。

オヤマダさん
うんうんうんうん。

ヨッシー
その…。だから100年後に、結果が出るようなことをやる、モチベーションというか、どういう向き合い方で、そう…。そういったことをされて、その気持ちの持ち方というか。

オヤマダさん
あぁー。そうっすよねぇ…。

ヨッシー
伺いたいなぁって。

オヤマダさん
あのさぁ、けっこう、あのー。んっと…。会社とかだとさ、なかなか実感しにくいと思うんですよね、一般的な会社だと。

ヨッシー
はい。

オヤマダさん
まぁここ、お寺で私、住職、してて、35世なんですよ。んであのー、ここのお寺自体は、400年くらいの歴史があるんですよ(笑)

一同
えぇぇぇ…。

オヤマダさん
んで、だから、そういう意味では、すごい実感しやすいというか。あのさ、今お寺ってさ、聞いたことあるかもしれないけど、すごく経営、経営っていう面で見たらすんごい難しくて厳しい時代なんですよね。んでとにかく、まぁ弘前はそうでもないかもしれないですけど、五所川原で言ったらもうあと10年後くらいにはもう3分の2ぐらいの人口になってるので。

ヨッシー
あぁー。

オヤマダさん
それはもう確実なんですよね、数字として確実にそうなる、わけだから。んでそうなってくると、単純に計算すれば、檀家さんたちも3分の2になってしまうっていうことね。

ヨッシー
はい。

オヤマダさん
そうなるとかなり厳しい。でもそういうところはもうすでにたくさんあって、まぁ、経営難だし潰れてるお寺とかっていうのは全国みたらもうたっくさんあるんですよね。んでそん中の、たまたま今、まだ、生き残ってるお寺の一つではあるんですけど。そういうのすごい意識して、けっこうね、10年くらい前とかは、すごく勉強してたんですよ。もう「なんとかしないといけない」みたいな感じで。これはやばいぞ、どうやってここの建物や土地とかをさ、管理するためにどうしようって思ってて。すっげぇ気合い入ってて。んで、わぁが住職になったのって4年前なんですよね。

ヨッシー
あぁー。

オヤマダさん
よし、自分の番になったと。今まですごい勉強してきた中で、よしなんとかこの、生き残るというか。「このお寺絶対生き残らなきゃならない」みたいな感じで思ってたんだけど。

ヨッシー
はい。

オヤマダさん
だんだんだんだんさ、その「35世」みたいなやつがさ、視野に入ってきて(笑) そうすると、自分がやれることって本当にわずかなんですよね。んで、一日を見たってさ、今日ちょっとサボりたいなぁ…みたいな時とかあるじゃん。いや今日なにもしたくないとかさ。その積み重ねじゃん、やっぱ毎日毎日が(笑)

ヨッシー
あぁー。

オヤマダさん
んだけど一方で「なんとかしなきゃぁー」って気持ちがあったりしてて。でもそれで考えてみればさ、そのさっきの、私の前の34代の人たちは、もう、まぁそれなりの、社会状況の中で、厳しい時もあっただろうし、その中でなんとかやりくりしてきたと。で、今私にこう受け継がれて、だから、まぁ、私自身がやれる、だからその、自分の才能とかもさ、その、無いと思うし、まぁ、頑張れるところと頑張れないところってやっぱりあるから。自分のやれる範囲で、その適度に、サボりつつ、まぁやれることはやるよと、がんばってさ。だけどもうあと他の、次の人がやってね、みたいな気持ちになってきて。

ヨッシー
うんうん。

オヤマダさん
だから…。そういう感覚かなぁ、だから私の感覚って。べつに自分そんな大したことないし、やれることも少ないんだけど。んでもこう、なんとか、まぁ、次の代まで、もたして、あとはもう、優秀な人がやってくれたらいいなぁ、っていう感じ? だからその、結果…。そうっすよね結果…。いやでもその結果っていうのも気持ちはすごいわかるけど、でもあんまそこには意識してないっていうか、その。

ヨッシー
あー。

***

【幕間 その9】

 今回のインタビューに同席してくれたみんながそれぞれ、自分の中に漂っていた考えや思い、疑問を、ぽつりぽつりと口にしてくれました。
 ワーチャンこと戸崎くんは、「放課後、ナンニモシナイくらぶ」にも参加してくれている学生さんです。「日が落ちるのを待っている」という彼の話は、「ナンニモシナイ」の核心を突いているように、僕は感じました。
 みんなのアニキであるヨッシーさんは、たぶん、その場にいたみんなが訊いてみたいと思っていたことを、小山田さんに問いかけてくれました。「35世」や「400年」という年月を引き継いでいる人が、目の前にいるという事実に、僕は、開いた口を塞ぐことができませんでした、とさ。

***

お話は、第10話「二つの軸を行き来する。」に続きます。

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