『失われたナンニモシナイを求めて episode2 童心が帰るところ』は、津軽あかつきの会の工藤良子さんを訪ねた記録です。二〇二三年三月に二回、五月に一回、計三回、主に二回目と三回目に伺ったお話の内容をまとめています。
お話をした時間を合計すると五時間を超えました。そのような長い時間、私たちとお話してくださったことには、本当に感謝しかありません。しかし都合上、録音したすべてを掲載することはできないため、私、高橋厚史が編集した内容をここに公開していきます。
「編集」という行いの難しさを思いながら、お話を聞き、録音した声を文字に起こし、原稿というかたちに整えていきました。職業的に編集へ携わったことがないため、あくまで素人としての考えですが、「編集」という行いには喪失がつきまといます。
今回について言えば、工藤良子さんとの間で交わされた膨大な数の言葉を、高橋厚史という人間のフィルターを通して「間引き」、ここに掲載される原稿、テクストができあがっています。
つまり、皆さんがこれから読むテクストは、原–作者の生の声ではなく、ある意味では、イコライザーで調整され「何かが失われてしまったテクスト」ということになります。
しかし、生の声からかけ離れてしまわぬように、言葉の間引き、微調整、加筆は、必要最低限に留めるよう努めました。その試みがどれほど達成されているか、その判断は読者の皆さんに委ねるところとなります。
ただひとつだけ。
「失われてしまったものたち」は、変わらずそこに息づいています。
テクストの行間に、句読点に、空白に、息を潜めて眠っています。
文字となった言葉は、文字とならなかった言葉によって支えられ、文字とならなかった言葉もまた、文字となった言葉に支えられています。
良子さんとの対話を味わっていただければ幸いです。
二〇二三年八月三日 高橋厚史
第1話「『一番の欠点は好奇心が強いことで、それがまた、たった一つの良い点だ』って。」へ続く