【Introduction】

「ナンニモシナイ」をめぐり、色々な人たちのもとを訪れて話を伺う、『失われたナンニモシナイを求めて。』というこの企画。2回目は、青森県弘前市石川にある「津軽あかつきの会」を訪れ、会長の工藤良子さんのお話を伺いました。

2023年5月4日

【登場人物】

〈たずねた人たち〉
アツシ(高橋厚史)
シャッチョ(永井温子)

〈こたえてくれた人〉
リョウコさん
(津軽あかつきの会 工藤良子さん)

【第14話】

でも八十過ぎてからでもそう思うっていうのは、すごいこう、ホッとするっていうんだか。

アツシ
 だいたい、晩御飯の時とかに、あの、お酒飲みながら、あーでもないこうでもないってずっと喋ってるんですよね(笑)
 二時間、三時間ぐらいかな。

 

シャッチョ
 なる時はそのぐらいになるかもしれない(笑)

 

リョウコさん
 へぇー! いいの!

 

アツシ
 お互いもう、べろべろに酔っ払って…。

 

シャッチョ
 いつの間にか「あれ、ウイスキーがない…」みたいな。

 

一同
(笑)

 

アツシ
 そう、なくなってるとかあって(笑)
 うん、でも、こういう、 まあ、人によって、やっぱしゃべり方とか変わるところはあるんでしょうけど、その姿勢として、今、温子さんとの間でこう、しゃべっているような感じで、いろんな人と、おしゃべりできたら、面白いだろうなって、考えていて。

 

リョウコさん
 うん。

 

アツシ
 なんですかね、全く同じではないですけど、なんかその、できるだけ、 話す人とか、関係のある人とは…。
 ゆっくりでもいいので、その、型にはまらないような会話って言うんですかね、こう、いろんなとこに広がったりとか、飛んだりとか、するような話し方というか。まぁそれも、聞くっていうんですかね、話を聞いてれば、「あ、どうして今、自分にしゃべってくれてる人は、 このタイミングでこの言葉を使ったんだろう」って、こう、引っかかる時があって。
 で、その、言葉を、こう、拾って、そこから、会話の糸口を見つけていくっていう、自分の今の会話の形というか、そういうのがあって…。
 良子さんって、聞き上手ですか?

 

シャッチョ
 あぁー。すごい聞き上手じゃないかなぁとは思う。

 

アツシ
 話を聞くっていうところは、強く意識してたり、考えてたりするんですか。その、良子さんが、人の話を、聞く時って。

 

リョウコさん
 私も、それこそすみっこで引っ込んでるタイプで育ってきてるとこで、あのこうして、聞き取り、 こういうこと聞きたいと思ってこう、いろんな人から聞き取りして。そうせば、 人見知りなんだよね、やっぱり会うのも億劫で億劫で、一大決心して会うんだけども。

 

アツシ
 うんうん。

 

リョウコさん
 慣れ、慣れっていうのかだんだんにこう、の。

 

アツシ
 うん。

 

リョウコさん
 それでも、 その人によってはちょっとな、自分にとってちょっと言いたいことを言う人もあるし。そうすれば、すごく傷ついて。
 「私ってほんとにこうダメなんだ」と思うけど、だんだんに開き直って、「あ、自分は感受性が強いんだ」って思って(笑)

 

一同
 あぁー。

 

リョウコさん
 人よりもそういう、こう、あれが強いんだと思って。これを生かしていけばいいんだ。だんだんにこう、開き直ってきて。そう思うようになって。

 

アツシ
 うんうんうんうん。

 

リョウコさん
 人はみんな違うんだから、その人その人によってこう、こっちでも、接し方を変えればいいんだって。そのあたりのことだんだんわかってきたっていうのか。それからスムーズになってきて。
 今でもそうですよ、知らない場所に行けば人見知りするっていうのか、ちょっとこう、大儀で。

 

アツシ
 探り探り、みたいな。

 

リョウコさん
 うちの会のあの人みたいには行かないもんな(笑)

 

一同
(笑)

 

リョウコさん
 どこに行ってももう、パパパって自分の…。

 

シャッチョ
 あのノリで行きますもんね(笑)

 

リョウコさん
 そうそう(笑)

 

アツシ
 この前会った時はイタコの格好してましたもんね(笑)

 

リョウコさん
 あぁいうのはできないと思う(笑)
 でも自分が自分だと思っての。

 

シャッチョ
 うんうん。

 

リョウコさん
 ちょっとその辺、まあ開き直ったって言えばいいか…。それでだんだんそういう生活長くして。
 サンフェスタ石川でも、あそこは物売ったことない人たちが、物売った経験初めての人ばかりだったから。お客さんに接するわけだよね。そうすれば、 みんなが好意的なわけでないし、いろんな人いるし、こっちの方でも未熟だから、ちょっとこう、変なこと言ったりしてそれがばっと返ってくるし。そうなればまた落ち込むんだけども、それでも、これが人ってこう、こうなんだって、いろんな人がいるもんだって。
 あそこの販売をしながらいい経験して。

 

アツシ
 うんうん。

 

リョウコさん
 いろんなところ行って、東京にも何回も売りに行ってるし、横浜とかいっぱい歩いたんだけども、アメリカにも行ったの。

 

アツシ
 そうなんですか!

 

リョウコさん
 県産品を売りに。

 

シャッチョ
 すごい。

 

リョウコさん
 県の事業でシアトルに行って。十日間、言葉、言葉ぜんぜん通じないはんで、ほんとに手でこう、こういう感じで(笑)
 そういう経験がすごくこう、自分にとって大きかったと思うな。あの、物を売るっていうのは難しいけども、面白いんだよね。
 んで、この頃ふっと考えて、自分はこう、人間、人好きなんだべかなと思って。

 

アツシ
 あぁー。

 

リョウコさん
 今までは、人見知りするから、あまりこう知らない人とこう、どんと出ていく方でないと思ってたんだけども、 こうして、ここの人とか、いろんな人と接して、ここに来るお客さんとかも接して話してるうちに、「あれ、私ってほんとは人間好きなんじゃないかな」ってこの頃そう思うようになってきた。
 やっと、八十過ぎて(笑)

 

アツシ
 八十年越しの、発見ですねそれは…。

 

リョウコさん
 でも八十過ぎてからでもそう思うっていうのは、すごいこう、ホッとするっていうんだか。 よかった、それでいいんだ、と思うんだ。

 

アツシ
 でもそっか、そうですよね…。なんか同じような、あの…。

 

リョウコさん
 うん。

 

アツシ
 そういう、自分の発見、僕もあって、人付き合い苦手なんだなって思ってたんですけど。 だからその、いろんな人の話を聞く中で、 「あ、なんか普通に人としゃべるのが好きかもしれない」って、思って。

 

リョウコさん
 うんうん。

 

アツシ
 それってなんかこう、なんですかね。お話してると、やっぱ時々フッと、 その人にしかない、こう、ものというか…。
 「あ、だから、この人はこの人なんだ」って思うようなお話とかが出てきて。それがすごく、嬉しいんですよね。なんかそういう瞬間に居合わせた時って、あ、少し…。
 そんな人間のこと、他の人のこと簡単に知れるわけではない、ですけど、でもちょっとでもなんていうか、その人の奥にあるものに触れた時ってすごい感動します。それが癖になってるのかもしんない。

 

リョウコさん
 詩人なんでない?(笑)

 

アツシ
 いやそんなちょっと(笑)

 

リョウコさん
 言葉もすごくこう選んで綺麗だし。

 

アツシ
 あぁそんなありがとうございます…。

 

シャッチョ
(笑)

 

アツシ
 うん、なんか、面白いっすね、言葉って、怖いところもあるんですけど。

 

リョウコさん
 うん、んだの。

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