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【Introduction】

「ナンニモシナイ」をめぐり、色々な人たちのもとを訪れて話を伺う、『失われたナンニモシナイを求めて。』というこの企画。2回目は、青森県弘前市石川にある「津軽あかつきの会」を訪れ、会長の工藤良子さんのお話を伺いました。

2023年5月4日

【登場人物】

〈たずねた人たち〉
アツシ(高橋厚史)
シャッチョ(永井温子)

〈こたえてくれた人〉
リョウコさん
(津軽あかつきの会 工藤良子さん)

【第15話】

なんもない土地なんです、あの。

アツシ
 でも、いろいろなところに行ってたんですね。

 

リョウコさん 
 ほんとにあの、物売りっていうのは自分に今まで経験したことない。んでなんで一生懸命やるかってば、いや、あそこのサンフェスタが一五〇人の会で、それの代表として、こう、みんなのためっていう、 大儀、自分に対して、誰もそれ言ったわけでないんだけど、自分に対して「あ、これやって、次にこう進んでいかないばダメだ」っていう大義名分を自分一人前、抱えて、それで一生懸命やって。
 それこそ、物売りっていうのは苦しい、辛い時もあるもんだっていうの身に染みて、考えるんだけど、でも、やらなくちゃっていう。

 

アツシ
 うんうん。

 

リョウコさん
 自分が経験してきたことを次、だいたいみんなあの物売りしたことない、仲間、みんな農家の人だから。
 自分が経験したことはこれだば大丈夫と思って、次の人たち次に行かせて。んでその人たちにくつけてまた次の人と行かせて。とにかく売ってみねば経験しないばいいもの作れないよっていうことで。
 そしてあの会を、広げていって。あの頃は結構盛り上がったいい会、今はもう寂れてしまってるけども。

 

アツシ
 へぇ…。

 

リョウコさん
 一人、自分一人のことだったら逃げてたかもわかんない。この、物売りに歩くのも。「あ、もういいや、別なことをやりたい」って思って、私は趣味が多いところあって「別なことやる、これやらなくてもいいや」と思ったかもわかんないけど、周りの人をしょわないばダメだっていうこう、偶然リーダーに選ばれた以上は、できる範囲で自分の能力のある…。やってみようと思って。

 

アツシ
 リーダーに選ばれたのって偶然…。

 

リョウコさん
 偶然です。
 各、この辺の五町会あるんだけど、そこから一人ずつ役員って連絡員みたいな人選んでそれは農協で選んだんです。その中の、この辺の、に選ばれて。
 っていうのは、今まで勤めていたのが、家にいるようになって「暇だべ?」っていうことで(笑)
 そして、その選ばれた人の中から、あの、リーダーを選んだんだけど、「あんたがいいんでない? 歳塩梅といい畑の規模も少ないし」っていう。
 そういうことになって「わー、ちょっと私はやりたいこといっぱいあるし、ちょっとの」と思ったんだけど、押し付けられてしまって(笑)

 

アツシ
 押し付けられて(笑)

 

リョウコさん
 そいで、決まった以上はやらなくちゃっていう。 決まる前は、いやだいやだって、あれすんだけど、一旦決まればもう「よしやる」ってなるんで、いつでもそうなんです。

 

アツシ
 押し付けられたけど、決めて。

 

リョウコさん
 今考えればいい経験だったと思うよな。その長い、自分の一生の間にそういう時期があったっていうのは。

 

アツシ
 なかなかない、何年ぐらい、その、勤めたんですか、会長。

 

リョウコさん
 十年、ちょうど。「あ、これは十年だ」と思って最初から。十年経てば私は絶対あの終わりだからって、違うことやりたいことあるからっていうことで。
 十年やったら、加工所作って、裏の方に。で、それがまた大きい加工所で、それをこう、クリアしていくのにはちょっと、だれさやらせても、大変な負担だと思って。それで、その加工所の方で、十年、加工品作ったり、それ販売したり、 それやったんです。
 だから、あそこさ二十年近く、縛られてしまって(笑)
 うん、ほんとにね、五十から六十五、六までだから、あの…。
 自分のあれにとっては長い期間で、あれがなければ今頃どうして、自分がどうしてるか、もっと違う形になってるんじゃないかと思う時もあるけど、 まあいい経験だったなと思って。

 

アツシ
 うんうんうん。

 

リョウコさん
 なんもない土地なんです、あの。
 畑っても田とりんご、の土地だから男の人がこうリーダーになってやるのに女の人たちはついていくだけのこう、指図通り動いてるだけの地区だから。リーダーになる人もいないし、で、 りんごと米だから、野菜はもう自家用にちょこちょこっとやってるだけで、それを販売するとなればある程度の量やらないばダメだし。
 だからその、物を作るのと人、人作りっていうのかこう、一緒にやっていかねばダメっていう。それでちょっと忙しかったけどもな。
 でも、最初、自分が経験したことをちょっとずつこう、リーダーになりそうな人にくっつけていって引っ張っていけば、それなりに、畑にばっかり行ってる人がこう出てきて、自分を、自分の世界が広がるっていうのか。

 

アツシ
 うーん。

 

リョウコさん
 やっぱり、みんなそういう、女の人でもみんなそうなんだよね。畑に行って男の人の言う通りして炊事洗濯する…。
 それはそれで別に悪くはないけども。自分を出せるっていうのか、自分の世界が広がるっていうのもけっこうみんな刺激になって、なんかこう生き生きとしてきて。
 それで、リーダーが結構育っていったんですよ、あそこは。

 

アツシ
 へぇぇ…。

 

リョウコさん
 誰かがこう、先頭に立って言う通りになってる会は、やっぱりダメだよね。
 だからその時ももうそんでもないこうでもないって、あの、いいようにもめて、みんなが意見出し合って、「陰さ行ってしゃべるんだっきゃ聞こえてこないはんでここでしゃべんねばまいねんだよ!」って、「しゃべりてぇことしゃべれ」って(笑)
 そういう十年間だったんです。自分でも鍛えられたしな。「そんな小さいこと、あぁもうそしたことどんでもいいね」って言ったりして、ちょっと、雑だって言えば雑だけど(笑)

 

一同
(笑)

 

リョウコさん
 んであの、そっちこっちで「ちょっと!」って、こう、なんか仕事してる時に声かけてくる。「あぁーうるせうるせ今それどこでねぇ!」って(笑)
 すごかったのもう、「振り払われたよぉ」ってあとで言われて、そういう時期もあったの。

 

アツシ
 すごい(笑)

 

リョウコさん
 百人もいるんだものな、いろんな人いる。でも…。
 どういう人もみんな自分なりに一生懸命やってる人たちです。まぁ、悪い人はいなかったの。今もそうだけど。

 

シャッチョ
 意地悪な人とか全然いないもんなぁ、あかつき…

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